マンションの管理組合で安否確認の仕組みを作ろうとすると、戸建ての地域とは前提がまるで違うことに気づきます。建物が倒れていなければ、住民は避難所へ行きません。その場に残ったまま、水も電気もエレベーターも止まった建物の中で数日を過ごします。安否確認は、避難した人を数えるための作業ではなく、建物の中に残っている人の状態を階ごとに把握するための作業です。この記事では、確認の方式、階の分け方、応答のない住戸の扱い、そして返事が来ないことを前提にした設計を順に整理します。
在宅避難が前提だから、確認の意味が変わる
災害が起きたとき、耐震基準を満たした分譲マンションの多くは、建物としては使える状態で残ります。壁に亀裂が入り、家財が倒れ、給水と排水が止まっていても、建物そのものは立っています。行政も、建物が使えるなら在宅避難を勧めます。避難所の収容力には限りがあり、数百戸のマンションの住民が全員押しかければ破綻するからです。
そうすると、管理組合が把握すべきことは戸建ての地域と変わります。戸建てなら「誰が避難所に来ていないか」が安否の指標になりますが、マンションでは全員が建物の中にいることが前提です。知りたいのは、どの住戸で人が動けなくなっているか、どの階で助けが要るか、という中身のほうです。
さらに厄介なのが、建物の被害と生活の被害がずれることです。躯体は無事でも、エレベーターが止まれば高層階の高齢者は外に出られません。受水槽や給水ポンプが止まれば、蛇口から水が出ません。排水管が損傷していれば、トイレを流せません。つまり、無事という返事が返ってきた住戸も、3日後には支援が必要になっている可能性があります。
このため、マンションの安否確認は1回で終わりません。発災直後に全戸の状態を取り、その後は要支援の住戸に絞って繰り返し確認する、という二段構えになります。この構造を最初に理事会で共有しておかないと、「1回全部回ったから終わり」という設計になってしまいます。
問い合わせる方式は、最初から破綻している
安否確認の方式を考えるとき、最初に浮かぶのは「全戸に連絡して返事をもらう」という形です。これはマンションの規模では機能しません。
100戸のマンションで、理事が1戸ずつインターホンを押して回ることを想像してください。応答があるまで待つ時間を含めて1戸3分でも、300分かかります。5時間です。しかもエレベーターが止まっていれば、階段で上下しながらの5時間になります。発災直後の混乱の中で、理事がその作業に張り付くのは現実的ではありません。
電話やメッセージで一斉に問いかける方式も、同じ問題を別の形で抱えます。返事が来た住戸は分かりますが、返事が来ない住戸が「無事だが気づいていない」のか「動けない」のかが判別できません。返事が来ないほうが多数になるのが普通で、そこから絞り込む作業に結局人手が要ります。
だから、マンションの一次確認は「無事な人に、無事だと表明してもらう」方式で組みます。組合側が問いに行くのではなく、住民側から出してもらう。表明がない住戸だけを確認して回れば、回る先が10分の1以下になります。この考え方の転換ができているかどうかで、訓練の結果がまったく変わります。
玄関ドアに出す方式が、なぜ定着しているか
無事を表明してもらう手段として、マンションで広く使われているのが玄関の外に出す掲示物です。マグネット式の札、ドアノブに掛けるタグ、ドアに貼る紙。呼び方はいろいろですが、仕組みは同じで、無事な世帯が玄関の外側に印を出します。
この方式が定着している理由は3つあります。
1つ目は、通信を使わないことです。停電しても、基地局が止まっても、電池が切れても機能します。安否確認の一次手段を通信に依存させないという原則に、そのまま合致します。
2つ目は、廊下を歩けば一度に確認できることです。外廊下型のマンションなら、1つの階を端から端まで歩くだけで全戸の状態が目に入ります。内廊下型でも、階ごとに1人が歩けば数分で終わります。100戸を5時間かけて回る作業が、10人で15分に縮みます。
3つ目は、住民側の手間がほぼゼロだからです。ドアを開けて札を出すだけで、書く作業も、機器の操作もありません。高齢の方でも、子どもでもできます。
設計上の注意点も3つあります。まず、印の意味を「無事」に統一することです。助けが必要な世帯に出させる方式にすると、動けない人が出しに行けないという矛盾が起きます。次に、札を各戸に配ったあとの保管場所を決めることです。玄関のドアの内側にフックを付けて掛けておく、といった置き場所まで案内しないと、いざというときに見つかりません。最後に、平時に出しっぱなしにならないよう、訓練のたびに回収するか、回収しない設計にするかを決めておくことです。
階と棟で、確認の順番を分ける
一次確認を担当ごとに分けるとき、単位は階または棟にします。理由は移動の効率です。
エレベーターが止まっている前提では、担当者が上下に移動するコストが極端に高くなります。1人が1階から10階までを見に行く割り振りは、階段を9往復することになります。各階に1人ずつ担当を置いて、自分の階だけを見て報告する形にすれば、移動はほぼゼロになります。
順番を付けるなら、高層階から下ろすほうが理にかなっています。高層階ほど揺れが大きく、家具の転倒が起きやすく、そして外に出るのが難しいからです。ただし担当者自身が高層階まで上がる負担があるので、実務では各階に担当を置いて同時に確認するのが基本形です。担当がいない階が出るときだけ、上から順に見に行きます。
もう1つ分けるべきなのが、共用部の被害確認との役割分担です。安否確認の担当と、エレベーターや給水設備の状態を見に行く担当は別にします。同じ人にやらせると、どちらも中途半端になります。標準管理規約は、理事長が災害等の緊急時においては、総会または理事会の決議によらずに敷地および共用部分等の必要な保存行為を行うことができると定めています。設備側の判断は理事長に権限が集まる建て付けなので、安否確認は別の担当が並行して進めるほうが早く終わります。
緊急連絡先は8割が持っているが、更新されているとは限らない
安否確認で応答がなかった住戸に次に打つ手は、緊急連絡先への連絡です。全国調査では、緊急連絡先を整備している管理組合が81.7%、整備していないが11.9%でした。8割が持っている計算です。
問題は更新の状況です。緊急連絡先を整備している組合のうち、変更があるたび都度更新しているが45.2%、1年に1回以上定期的に内容の確認を行っているが6.0%、数年に1回程度が16.6%、内容の確認を行っていないが11.5%でした。都度更新と年1回以上を合わせても51.3%で、およそ半数です。
つまり、緊急連絡先を持っている組合の中でも、いざ電話をかけて相手につながる保証があるのは半分程度ということになります。携帯電話の番号は変わりますし、記載された家族が引っ越すこともあります。安否確認の手順書に「緊急連絡先に連絡する」と書いてあっても、その連絡先が生きていなければ次に進めません。
対策は単純で、確認の周期を決めて回すことです。組合員名簿については、標準管理規約が理事長に対して毎年1回以上の内容確認を義務づけています。緊急連絡先も同じ月にまとめて確認する運用にすれば、担当が代わっても続きます。全戸に配る用紙を作って回収する方式でもよいですし、変更がある人だけ出してもらう方式でも構いません。大事なのは、確認した日付を記録に残すことです。日付がないと、次の理事会が「最後にいつ確認したか」を判断できません。
名簿は3つあり、役割が違う
マンションの管理組合が持つ名簿は1つではありません。標準管理規約は、理事長が組合員名簿および居住者名簿を作成して保管すると定めており、この2つは別物として扱われます。これに緊急連絡先を加えた3つが、安否確認に関わる情報です。
組合員名簿は、区分所有者の名簿です。部屋を持っている人が誰かを記録します。全国調査では86.0%の組合が整備しています。ただし、この名簿に載っている人がそこに住んでいるとは限りません。賃貸に出していれば、名簿上の人物は別の場所に住んでいます。安否確認の対象としては使えません。
居住者名簿は、実際にそこに住んでいる人の名簿です。整備している組合は82.8%です。安否確認で必要なのはこちらですが、更新が難しいという弱点があります。賃借人は入れ替わりが早く、届出が組合まで上がってこないことがあります。
緊急連絡先は、本人に連絡が取れないときの連絡先です。同居していない家族や親族を書いてもらうのが通例です。
3つを1枚の紙にまとめている組合もありますが、更新の頻度が違うので分けたほうが管理しやすくなります。組合員名簿は売買のたび、居住者名簿は入退去のたび、緊急連絡先は本人の申告に基づいて。更新の起点が違うものを同じ紙に載せると、どこが古いのか分からなくなります。
閲覧の扱いも慎重に決める必要があります。全国調査では、組合員名簿について閲覧理由が妥当な場合は閲覧できるが37.1%、請求があれば閲覧できるが16.9%で、合計57.0%の組合が確認できる体制を持つ一方、閲覧を認めていない組合が38.2%ありました。安否確認の担当者にどこまで見せるかは、この閲覧の方針と整合させて決めてください。
要配慮者の情報を、どこまで持つか
高齢の単身世帯、車椅子を使う方、医療機器を家庭で使っている方。こうした住戸を先に把握しておけば、確認の順番を付けられます。ただし、これは本人の同意なしに集めてよい情報ではありません。
現実的な進め方は、手を挙げてもらう方式です。全戸に趣旨を説明したうえで、災害時に支援を希望する世帯だけ届け出てもらいます。届け出た世帯の一覧を作り、保管場所と閲覧できる人を限定します。届け出ていない世帯を組合の判断で名簿に足すことはしません。
保管の仕方でよく問題になるのが、階の担当者に配ってよいかという点です。配れば発災時にすぐ動けますが、平時に何十人もの手元に個人情報が置かれることになります。折衷案として、管理員室と理事長のところに封をして保管し、発災時に開封して担当へ渡す形を取る組合があります。開封の判断基準を先に決めておけば運用できます。
なお、災害時の要配慮者の把握は、行政の側にも仕組みがあります。市区町村が作成する名簿の対象になっている方については、地域の防災組織と情報を共有する枠組みが用意されていることがあります。管理組合が独自に集める前に、自分の市区町村の制度を確認してください。制度に乗れるなら、組合が個人情報を抱え込む量を減らせます。行政の防災に関する情報は内閣府や消防庁のほか、総務省の公開資料からたどれます。
応答がない住戸に、立ち入れるのか
安否確認で最も判断に迷うのが、返事も掲示物もない住戸をどうするかです。中で倒れているかもしれないし、旅行で不在なだけかもしれません。
管理組合には、限定された条件のもとで立ち入る根拠があります。標準管理規約の該当条文は次のとおりです。
前3項の規定にかかわらず、理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入り又は保存行為の実施をしなければ、共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、自らその専有部分又は専用使用部分に立ち入り、又は保存行為を実施することができる。この場合において、理事長は、委任した者にこれを行わせることもできる。 出典: mlit.go.jp
ここで押さえておくべきなのは、この条文が想定しているのが建物への影響だという点です。上の階から水が漏れて他の住戸に被害が及んでいる、といった場面です。人の安否そのものを確認するために立ち入る条文ではありません。
では中で人が倒れている疑いがあるときはどうするか。これは管理組合が単独で判断する場面ではなく、消防や警察を呼ぶ場面です。組合の手順書には「応答がなく、かつ在宅の可能性が高いと判断される場合は、119番または110番に通報する」と書いておくのが安全です。誰が通報するか、通報するときに何を伝えるか、鍵を管理員が持っている場合にどう扱うか。この3点まで書けていれば、その場の判断で迷いません。
なお、立入りを請求された側については、正当な理由がなければ拒否してはならず、正当な理由なく拒否した者はその結果生じた損害を賠償しなければならないという定めもあります。平時に廊下側の点検を断られる場面でも根拠になる条文です。
エレベーターが止まると、確認の難易度が階数で変わる
マンションの安否確認を戸建ての地域と分ける最大の要素が、縦の移動です。地震の揺れを感知するとエレベーターは最寄り階で停止し、多くの機種は自動では復旧しません。専門の技術者が点検して復旧させるまで、階段しかなくなります。
このとき何が起きるかを、階ごとに書き出しておく価値があります。3階までなら、水を運ぶのも買い物に出るのも、多少きつい程度で済みます。5階を超えると、水を運ぶ作業が高齢者には現実的でなくなります。10階を超えると、健康な成人でも1日に何度も往復する気にはなりません。15階以上では、外に出ること自体を諦める世帯が出ます。
つまり、同じマンションの中で支援の必要度が階によって階段状に上がります。安否確認の設計も、この差を織り込んでおくべきです。低層階は自力で動ける前提で、無事の表明だけ取れば足ります。高層階は、無事の表明があっても、数日後に水と食料の運搬支援が必要になる可能性が高い。だから、一次確認の集計表に階を書く欄を入れておくことに意味があります。
閉じ込めも見落とされがちです。地震のあと、エレベーターの中に人が残っている可能性があります。復旧作業を待つあいだ、かごの中に人がいないかを外から確認する手順を、安否確認の担当とは別に置いておくと安全です。各階の乗り場でインターホンを押して呼びかける、非常呼び出しの記録を管理員室で見る、といった手順です。
3日目からの確認は、一次確認と別に設計する
一次確認が終わったあと、支援が要ると分かった住戸に対して繰り返し確認を回す段階に入ります。ここを設計していない組合が多いのですが、実際に人が困るのはこの段階です。
回す間隔は、水と排水の状況で決まります。断水していれば1日1回は必要ですし、給水車が来る日は運搬の手伝いが要ります。排水が使えない場合は、簡易トイレの配布と回収が発生します。共用部の一部を仮設のごみ置き場にする判断も出てきます。
この段階の確認は、一次確認とは担当も様式も変えたほうがうまく回ります。一次確認は全戸を対象に短時間で終える作業で、人数が要ります。継続確認は対象が絞られた代わりに、数日から数週間続きます。同じ人が両方を担うと、続きません。
継続確認の対象になった住戸の一覧は、更新のたびに書き換わります。誰が今日どこを回ったか、その結果どう変わったかを記録する場所が要ります。紙の一覧を毎日書き直すのは現実的でないので、電気と通信が戻っている状況なら、共有できる場所に置いて更新するほうが早くなります。ただし、支援が必要という情報は本人の状態に関わる内容なので、閲覧できる人を限る必要があります。
通信が使えるときと、使えないときの二段構え
安否確認の手順書を作るとき、通信が使える前提で書いてしまうと、いちばん必要な場面で使えません。かといって、通信が使える場合でも紙だけで回すのは無駄です。二段構えで書きます。
一段目は、通信を一切使わない手順です。玄関の掲示物、階ごとの目視確認、紙の集計表、管理員室への持ち寄り。ここまでは電気も電波も要りません。この一段目だけで全戸の状態が確定するように設計します。
二段目は、通信が生きている場合に一段目を早める手段です。発災直後に全戸へ一斉に案内を流す、階の担当同士が集計を共有する、支援が必要な住戸の対応状況を更新する。どれも一段目を置き換えるのではなく、一段目にかかる時間を縮めるために使います。
順序を逆にしないことが大事です。通信の手段を先に整えて、紙の手順を後回しにすると、停電した瞬間に何も動かなくなります。手順書の1ページ目は必ず紙の手順から始めてください。
なお、二段目の道具を選ぶときに確認すべきなのは、平時に使われているかどうかです。年に1度の訓練でしか触らない道具は、本番で誰も使い方を覚えていません。日常の連絡に使っている場所が、そのまま非常時にも使えるのが理想です。
集計の様式を1枚に決めておく
階ごとに確認しても、集まった情報がばらばらの形だと、全体像が作れません。集計様式を先に決めて印刷し、防災倉庫に置いておくのが確実です。
1枚に載せる項目は5つで足ります。階または棟、確認した時刻、無事を表明した戸数、応答がなかった住戸番号、支援が必要な住戸番号と内容。これ以上増やすと、書く側が書ききれません。
集めた紙は1か所に持ち寄って、全体の集計表に転記します。転記先は管理員室か集会室で、そこが対策の本部になります。誰がどこに持って来るかを、階の担当に伝えておいてください。
集計した結果を誰に報告するかも決めておきます。行政に報告する仕組みが地域にあるならその窓口、無いなら組合の中で共有するだけになります。ここを決めていないと、集めた紙が本部に積み上がったまま活かされません。
紙で始めるのが基本ですが、電気と通信が生きている場合には、集計を早く回す手段があるほうが助かります。全戸への一斉連絡と、階ごとの担当だけが見る場所を分けられる道具なら、無事の報告と支援要請を混ぜずに扱えます。誰が見られるかを管理できること、つまりメンバー以外は見られない状態を保てることが前提になります。仕組みの違いはLINEグループとの比較やBANDとの比較で機能ごとに並べてあります。
建物に残れるかどうかは、組合が判断することではない
在宅避難を前提にすると書きましたが、その前提が崩れる場合があります。建物が損傷して、そのまま住み続けると危険な状態です。
この判定は管理組合が行うものではありません。大きな地震のあとには、自治体の要請を受けた判定士が被災した建築物を回り、応急的な危険度を判定して建物の入口に色分けした紙を貼っていきます。緑は調査済み、黄は要注意、赤は危険という区分で、赤が貼られた建物には立ち入らないよう求められます。あくまで応急的なもので、その後の被害認定調査や罹災証明とは別の手続です。
安否確認の手順書には、この流れを1段落だけでも書いておいてください。判定の紙が貼られたら誰が住民に周知するか、赤や黄が貼られた場合に組合として何を伝えるか。理事が独自に「まだ住める」と判断して住民に伝えることだけは避けなければなりません。建物の安全性についての判断は、組合の権限の外にあります。
同じ理由で、共用部の被害状況を撮影して記録に残す作業も、安否確認と同時に走らせておく価値があります。保険金の請求や、その後の修繕の意思決定で必ず必要になる材料です。標準管理規約は、損害保険の保険金等の請求と受領について理事長が区分所有者を代理すると定めていて、記録は理事長の職務を支える資料になります。撮る担当を安否確認とは別に置き、日付が入る形で撮ってもらってください。
訓練では、数字を1つだけ測る
防災訓練をやっている組合は、全国調査では39.8%です。消防設備等の点検を実施しているが69.5%で最も多く、災害時の避難場所を周知しているが30.3%、ハザードマップ等の情報を収集して周知しているが23.7%、防災用品や医療品を備蓄しているが21.6%、災害時の対応マニュアルを作成しているが19.1%、自主防災組織を組織しているが16.6%と続きます。特に何もしていない組合も11.6%ありました。
訓練をやっている4割の中でも、安否確認を数字で測っている組合は多くありません。測るなら1つで十分です。開始から何分で、全戸の何パーセントの状態が確定したか。
この数字だけを毎年記録していけば、改善したかどうかが分かります。掲示物の方式に変えた年、階ごとの担当を置いた年、名簿を更新した年。それぞれの前後で数字が動きます。動かなければ、その施策は効いていないということです。
訓練で見つかる典型的な詰まりは3つです。担当者が自分の階を知らない。掲示物がどこにあるか分からない。集計用紙が防災倉庫の奥にあって取り出せない。どれも訓練しないと分かりませんし、どれも訓練の翌週に直せます。
訓練の参加率が低いことを気にする組合は多いのですが、安否確認の訓練に関しては参加率はあまり重要ではありません。掲示物を出す作業は、参加していない世帯でも案内があればできます。測るべきは、案内を受け取った世帯のうち何割が実際に出したかです。出さなかった世帯に理由を聞けば、札の保管場所が分からなかったのか、案内を読んでいなかったのかが分かります。どちらも次の年に直せる種類の問題です。
管理会社と、自主防災組織の役割を先に切り分ける
マンション特有の事情として、管理会社が介在します。多くの組合は管理業務を委託していて、緊急時の受付窓口を管理会社が持っています。設備の故障、漏水、閉じ込め。こうした事象は管理会社の受付に流れます。
安否確認は、この経路とは別に作ります。管理会社の受付は個別の事象を受ける窓口であって、全戸の状態を集める仕組みではありません。混同すると、発災直後に管理会社の受付が鳴り続けて、どちらの機能も止まります。
自主防災組織を持っている組合は16.6%と少数ですが、持っているなら安否確認はその中の役割として置くのが自然です。持っていない組合では、防災を担当する理事を1人決めて、その人の職務として引き継いでいく形になります。理事の任期が1年の組合が57.1%を占めるので、担当が毎年替わる前提で、手順書を紙で残すことが前提条件になります。
とりまとめる立場から見た安否確認の本質は、発災時にうまくやることではなく、平時に更新し続けられる仕組みを持つことです。名簿の確認日、掲示物の配布記録、担当表、集計様式。この4つが毎年更新されていれば、誰が理事でも同じ水準で動けます。他の団体が連絡と名簿をどう畳んでいるかは町内会での使われかたに例があり、始める前に出やすい疑問はよくある質問にまとめてあります。
Q1. マンションの安否確認は、全戸に連絡して返事をもらう方式でよいですか?
規模が大きいほど成り立ちません。返事が来ない住戸が「無事だが気づいていない」のか「動けない」のかを判別できず、結局は全戸を回ることになります。無事な世帯に玄関の外へ印を出してもらい、出ていない住戸だけを確認する方式に切り替えると、回る先が大幅に減ります。通信が止まっても機能する点も利点です。
Q2. 玄関ドアに出す掲示物は、どう設計すればよいですか?
印の意味は「無事」に統一してください。助けが必要な世帯に出させる方式だと、動けない人が出しに行けないという矛盾が起きます。あわせて、各戸での保管場所を玄関の内側と決めて案内すること、訓練のたびに回収するかどうかを決めておくことの2点も先に固めておくと、いざというときに探す時間が消えます。
Q3. 応答がない住戸に、管理組合が立ち入ってもよいのですか?
規約が定める緊急時の立入りは、共用部分や他の専有部分に物理的または機能上重大な影響が及ぶおそれがある場合を想定しています。人の安否そのものを確かめるための条文ではありません。中で倒れている疑いがあるときは消防や警察へ通報する場面です。誰が通報し、何を伝え、鍵をどう扱うかまで手順書に書いておいてください。
Q4. 緊急連絡先は、どのくらいの頻度で確認すべきですか?
少なくとも年に1回です。全国調査では緊急連絡先を整備している組合は81.7%ある一方、都度更新と年1回以上の確認を合わせても51.3%にとどまり、確認を行っていない組合が11.5%あります。組合員名簿には毎年1回以上の内容確認が規約で求められているので、同じ月にまとめて確認し、確認した日付を記録に残す運用にしてください。