防災マップの作り方で迷う場所は、地図を描く作業ではありません。市が配っているハザードマップと何を変えるのか、歩いて何を見るのか、できた1枚を誰にどう配るのか、この3点です。すでに公的な地図があるのに自分たちで作る意味があるのは、公的な地図には載らない情報があるからです。この記事では、下調べからまち歩き、1枚にまとめる作業、印刷と配布、毎年の見直しまでを順に並べ、とりまとめる立場の人が次に何を決めればよいかを整理します。
公的なハザードマップと、住んでいる人が作る地図は役割が違う
最初に押さえるべきことは、行政が配っているハザードマップと、地域で作る防災マップは別のものだという点です。この区別が曖昧なまま始めると、行政の地図を写すだけの作業になり、労力に対して得るものがなくなります。
行政のハザードマップは、河川の氾濫や土砂災害、高潮、津波といった災害の想定区域と、指定された避難所を示したものです。法令に基づいて作られ、広い範囲を同じ基準で表しています。国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、各機関が作った情報をまとめて見られるようになっています。
「重ねるハザードマップ」「わがまちハザードマップ」は、関係各機関が作成した災害リスク情報などの防災情報を、まとめて閲覧できるようにしたウェブサイトです。掲載されているデータの内容や、リスク情報の解釈等については、作成した機関にお問合せください。 出典: disaportal.gsi.go.jp
一方で、地域で作る防災マップに載るのは、歩かなければ分からない情報です。崩れそうな石垣の位置、雨のときに水がたまる交差点、夜間に真っ暗になる道、車では通れない細い抜け道、消火器と消火栓の場所、助けが必要な人が住んでいる区画。これらは広い範囲を同じ基準で作る地図には載りません。
つまり、地域で作る地図は行政の地図を置き換えるものではなく、その上に自分たちの目で見た情報を重ねるものです。だから最初の作業は歩くことではなく、行政の地図を読むことになります。
用意するものと、作業を担う人の決め方
必要なものは多くありません。地図、筆記具、記録の道具、それに人です。
地図は、歩く範囲が1枚に収まる縮尺を選びます。町内会の区域なら、電柱や路地が見える程度の詳しさが必要です。市の窓口で配っている白地図、住宅地図の写し、地図サービスから印刷したものが使えます。歩きながら書き込むので、下書き用に同じ地図を数枚用意しておくと安心です。
筆記具は、色を分けられるものを用意します。赤は危険、青は水に関わるもの、緑は避難に使えるもの、といった決め方を先にしておくと、歩きながら迷いません。写真を撮る道具も必要です。あとから1枚にまとめるとき、現場の記憶だけでは書けません。
人の役割は4つに分けます。第1に、進行を担う人。第2に、地図に書き込む人。第3に、写真を撮る人。第4に、時間と安全を見る人。1人で全部を担うと、歩きながら書くことになり、見落としが増えます。
参加する人数の目安は、1つの組で5人から8人です。10人を超えると後ろの人に話が届かず、見ている場所がずれます。区域が広い場合は組を分け、それぞれ別のルートを歩いて、あとで合わせる形にします。
子どもの参加は有効です。大人の視線では気づかない高さの危険に気づきます。ただし歩く時間が長くなると集中が続かないため、子どもを含む組は1時間程度で切り上げる計画にしてください。
第1段階。歩く前に机の上で調べる
歩き始める前に、机の上で調べる作業があります。ここを省くと、歩いた結果をどこに位置づけるか分からなくなります。
調べることは4つです。第1に、自分たちの区域がどの災害の想定区域に入っているか。洪水、内水、土砂災害、高潮、津波のどれに該当するかで、見るべき場所が変わります。第2に、指定された避難所と、そこまでの経路。第3に、過去に区域内で起きた被害の記録。第4に、区域内の世帯数と、支援が必要な人の人数の概数。
第1と第2は、行政の地図とハザードマップポータルサイトで分かります。第3は、市の防災担当や、長く住んでいる人に聞くと出てきます。「あの年の雨でここが冠水した」という話は、記録に残っていないことも多く、聞き取りでしか集まりません。第4は、名簿を扱う話になるため、個人が特定できる形で地図に書かないという方針を先に決めておいてください。
調べた結果は、歩く前の地図に薄く書き込みます。想定区域の境目、避難所の位置、過去に浸水した場所。この3つが入った地図を持って歩くと、見るべき場所が自然に絞られます。
歩くルートも、この段階で決めます。避難所までの経路を軸に、区域内の主要な道と、細い道を1本ずつ入れる形です。所要時間は2時間を上限に組んでください。それ以上になると後半の記録が粗くなります。
防災マップ作成のために実際に街歩き調査をするルートを決めます。小さなお子さまがいる家庭では、子ども目線での危険物の発見もありますので、ぜひ一緒にルートを決めるようにしましょう。 出典: zenrin.co.jp
ルートを決める段階から参加者を交ぜると、当日の見落としが減ります。道を決める会議に出ていた人は、当日に自分の目で確かめようとするからです。
第2段階。まち歩きで何を見るか
歩くときに見る対象を決めておかないと、参加した人がそれぞれ別のものを見て帰ります。見る対象は次の5つに整理できます。
第1に、倒れたり崩れたりするもの。石垣、ブロック塀、自動販売機、古い門柱、電柱、看板。地震のときに道をふさぐものが対象です。
第2に、水に関わるもの。低くなっている交差点、側溝の詰まり、水路とその蓋、坂の下の駐車場、地下に下る階段。雨のときに水が集まる場所が対象です。
第3に、通れなくなる道。幅の狭い道、行き止まり、階段だけの通路、踏切、橋。車椅子やベビーカーが通れるかどうかも合わせて見ます。
第4に、助けになるもの。消火器、消火栓、防火水槽、AED、公衆電話、井戸、広い空き地、夜間も明かりがある建物。災害のときに使える資源が対象です。
第5に、夜の状態。街灯の間隔と、消えている街灯の位置です。昼に歩いただけでは分かりません。日を分けて、暗くなってから同じルートを歩く回を設けると、避難経路の選び方が変わります。
歩きながらの記録は、地図に番号を振り、その番号で写真と記録用紙を結び付ける形が確実です。地図に文字を書き込みすぎると、あとから読めません。番号だけを地図に入れ、内容は別の紙に書きます。
防災の観点で、自宅から避難場所までのルートを実際に歩いて調査します。調査ではルート上に危険箇所がないかをチェックし、発見し次第、下書き用の地図に書き込んでいきます。普段何気なく通っている道にも意外な危険が潜んでいるかもしれません。注意深く歩いてみましょう。ここでは特に気を付けたい4つのポイントをご紹介します。 出典: zenrin.co.jp
歩く目的が避難経路の確認にあることを、参加者に最初に伝えてください。危険な場所を数えることが目的になると、地図が赤い印で埋まり、どの道を通ればよいかが読み取れなくなります。
参加者を集めるときの案内文と、当日の段取り
作業そのものより先に詰まるのが、人が集まらないことです。案内の書き方で参加者数が変わります。
集まらない案内には共通点があります。目的が「防災マップ作成」と書かれているだけで、参加すると何をするのか、何時間かかるのか、何を持っていけばよいのかが書かれていません。参加を迷っている人が知りたいのはそこです。書くべき要素を入れた例文が次の形です。
【地域の防災マップづくりへのご参加のお願い】
日時: 11月8日(日)9時30分から11時30分まで(雨天のときは11月15日に延期)
集合: ○○集会所 9時20分
内容: 2つの組に分かれて区域内を歩き、危険な場所と避難に使える場所を確認します。
歩いたあと、集会所で地図に書き込みます。
持ち物: 歩きやすい靴、帽子、飲みもの。筆記具はこちらで用意します。
対象: どなたでもご参加いただけます。お子さまとご一緒でも構いません。
お子さまとご参加の組は10時30分で切り上げます。
歩く距離は約2キロメートルです。途中に階段のある経路を含みます。
ご参加くださる方は、11月1日までにお知らせください。
当日の段取りは、時間を区切って組みます。集合と説明に15分、歩く時間に90分、集会所に戻って書き込む作業に30分。歩く前の説明で、見る対象の5つを紙で配ってください。口頭の説明だけでは、歩き始めて数分で忘れられます。
安全の手当ても要ります。道路を歩くため、車の通る道では並んで進む、横断は決めた場所で行う、体調が悪くなった人が抜けられる連絡先を伝える。この3点を最初に言っておいてください。歩くのが難しい人には、集会所で書き込む作業を担ってもらう形が成立します。
防災マップは1種類ではない。何を示す地図かを先に決める
防災マップと呼ばれているものには、目的の違う数種類があります。混ぜて1枚に押し込むと読めなくなるため、何を示す地図を作るのかを先に決めます。
第1に、避難経路図です。どの道を通ってどこへ向かうかだけを示します。災害のときに実際に使うのはこれで、情報が少ないほど役に立ちます。区域内に避難先が複数ある場合は、地区ごとにどちらへ向かうかを分けて示します。
第2に、危険箇所図です。崩れるもの、水がたまる場所、通れなくなる道を示します。平常時に直すべき箇所を行政に伝える資料としても使えます。区域の点検の記録という性格が強い地図です。
第3に、資源マップです。消火器、消火栓、防火水槽、AED、公衆電話、井戸、広い空き地を示します。訓練のときに使う地図で、災害のときに探し回る時間を減らします。
第4に、支援が必要な人の把握に関わる情報です。これは配る地図には載せず、限られた役員だけが扱う一覧として管理する形が一般的です。地図に印を入れてしまうと、配った時点で外部に出ます。
全世帯に配るのは第1が中心で、第2と第3は集会所に貼る形が扱いやすくなります。1枚に全部を載せるなら、避難経路を最も目立たせ、他の情報は色を弱くしてください。
費用と、使える支援の確かめ方
費用がかかるのは印刷だけです。地図の作成そのものは、人の時間で済みます。
印刷の費用は、大きさ、紙の種類、色の数、部数で決まります。同じ部数でも、片面と両面、白黒と多色で大きく変わります。見積もりを取るときは、大きさ、紙、色の数、部数、折り方の5つを指定してください。この5つがそろっていない見積もりを比べると、安く見えた業者のほうが高くつくことがあります。
費用を抑える方法は3つあります。第1に、色の数を減らします。第2に、区域の全世帯に配る版は簡素にし、詳しい版は集会所に貼る1枚だけにします。第3に、市区町村の地域活動への支援の仕組みを確かめます。自主防災組織の活動や防災用品の整備に対する支援は自治体ごとに内容が違うため、防災の担当窓口に直接聞いてください。募集の時期が決まっていることが多く、作り始める前に確かめておくと、次年度の計画に組み込めます。
会の費用から出す場合は、総会に諮る形を取ります。印刷費が予算の項目に無いまま支出すると、会計の報告で説明が必要になります。地図の作成を計画に入れる年は、予算案に印刷費の項目を立てておいてください。
第3段階。集めた情報を1枚にまとめる
歩いたあとの作業が、いちばん手間がかかります。ここで形を決めておかないと、情報量が多すぎて読めない地図になります。
まず、載せる情報を絞ります。歩いて見つけた対象のうち、避難の判断に関わるものだけを残します。石垣が古いという情報は、避難経路上にあるなら載せ、そうでなければ別の一覧に回します。地図の役割は、どの道を通ってどこへ向かうかを示すことです。
次に、記号と色を決めます。記号は5種類までに抑えてください。危険、水、通れない、助けになるもの、避難所。この5つで足ります。凡例は地図の端に必ず入れ、記号の意味を文字で書きます。凡例のない地図は、作った人以外に読めません。
色は3色までにします。印刷の費用が変わるうえ、色の数が増えるほど読み手が凡例を参照する回数が増えます。避難経路を1色で太く示し、危険な場所を1色の印で示し、助けになるものを1色で示す形が読みやすくなります。
文字の大きさも決めます。配る相手に年配の人が含まれる前提で、地図上の文字は小さくしすぎないでください。情報を詰め込んで文字を小さくした地図は、必要なときに読めません。
作業は表計算や文書作成のソフトでもできますが、地図の画像に印を重ねる形が最も簡単です。地図サービスの画面を印刷したものに手書きで印を入れ、それを1枚の原稿として複写する形でも十分に役目を果たします。きれいに作ることより、区域の全世帯に届くことのほうが重要です。
第4段階。印刷して配る
できた原稿を配る段階で決めることは4つです。大きさ、部数、配り方、置き場所です。
大きさは、A3判が扱いやすい大きさです。壁に貼れて、折れば持ち歩けます。A4判では区域全体の道が読み取れず、A2判より大きいと保管されません。両面にする場合は、片面に地図、もう片面に連絡先と持ち出すものの一覧を入れる形が使われます。
部数は、区域の世帯数に1割程度を足します。新しく入居した世帯に渡す分と、集会所に保管する分、訓練で配る分が必要になります。印刷の費用は紙の種類と部数で大きく変わるため、複数の業者に同じ仕様で見積もりを取ってから決めてください。仕様がそろっていない見積もりを比べると判断を誤ります。
配り方は、既存の経路に乗せるのが確実です。回覧で回すと、見た人が次に渡してしまい手元に残りません。配布物として1軒ずつ届ける形にしてください。
置き場所の指定も一緒に伝えます。「玄関の内側に貼ってください」と書き添えるだけで、実際に貼られる率が変わります。引き出しに保管された地図は、必要なときに出てきません。
作った地図を電子の形でも保管しておいてください。原稿の画像を残しておけば、翌年の見直しで作り直す手間が半分になります。紙の原稿しか残っていない会では、担当が代わった時点で最初から作り直すことになります。
写真と個人情報の扱いを決めておく
まち歩きでは写真を撮ります。ここに配慮が要ります。
住宅を撮ると、表札、車のナンバー、洗濯物、窓の中が写ります。地図に載せる写真は、危険な対象だけが写るように寄せて撮り、住宅が特定できる範囲を含めないでください。撮ったあとで切り取る形でも構いませんが、元の写真の保管場所にも同じ配慮が必要です。
支援が必要な人の情報も同じです。地図に個人が特定できる印を入れると、その地図が外部に出たときに困ります。世帯の位置を示す必要があるなら、地図とは別に、限られた役員だけが見る一覧として管理する形が一般的です。こうした運用をしている会が多いという範囲で捉えておいてください。
歩いた記録の写真をどこに保存するかも決めます。参加者がそれぞれの機器に保存したままだと、1枚にまとめる作業のときに集まりません。撮った写真を1か所に集め、会の中だけで見られる状態にしておくのが実務的です。メンバー以外は見られない場所にまとめておけば、写真の扱いを毎回考え直す必要がなくなります。
作業が終わったあとの写真の保存期間も決めてください。次の見直しまで残す、というのがいちばん扱いやすい決め方です。
電子の地図で作る場合の利点と注意
紙ではなく、地図サービスの上に情報を重ねて作る方法もあります。線と印を画面上で引き、公開範囲を選んで共有する形です。
利点は3つあります。第1に、修正が簡単です。街灯が直った、塀が撤去された、といった変化をその場で反映できます。第2に、写真を印に紐づけられます。危険な場所の写真をその位置で見られると、文字より早く伝わります。第3に、拡大できるため、細い道の状態まで載せられます。
注意点も3つあります。第1に、公開範囲の設定を誤ると、区域内の危険な場所の一覧が誰でも見られる状態になります。作る前に、誰に見せるかを決めてください。第2に、作った人のアカウントに紐づくため、担当が代わるときに引き継げないことがあります。会として管理する場所に置き直すか、書き出したものを残してください。第3に、災害のときに通信が使えないことがあります。電子の地図を作った場合も、紙の版を必ず用意します。
紙と電子のどちらかを選ぶのではなく、電子で作って紙で配る形が現実的です。修正のしやすさと、通信に依存しない強さの両方が得られます。
学校や集合住宅と一緒に作るときの進め方
区域の中に学校や大きな集合住宅がある場合、別に作るより一緒に作るほうが実際の役に立ちます。災害のときに動く範囲が重なるからです。
学校と一緒に作る場合、通学路が中心になります。子どもが毎日歩く道の危険を確認する作業は、学校の安全の取り組みと目的が一致するため、話を通しやすくなります。進め方としては、まち歩きの日に児童とその保護者が参加する組を作り、歩いたあとの書き込みを学校の活動の時間に行う形が使われます。できた地図を学校に貼ると、保護者の目にも入ります。
注意点は写真です。子どもが写った写真の扱いは学校の方針に従ってください。地図に載せる写真は危険な対象だけに絞り、人が写ったものは使わない形にしておけば、判断に迷いません。
集合住宅と一緒に作る場合、建物の中の経路が対象に入ります。階段の位置、非常用の設備、断水のときに水を確保できる場所、停電のときに動かなくなる設備。これらは外を歩くだけでは分かりません。管理組合と町内会が別の組織になっている場合、どちらが作るかで揉めることがあるため、外の経路は町内会、建物の中は管理組合という分け方を先に決めておいてください。
どちらの場合も、できた地図の保管先を1つに決めます。学校、管理組合、町内会がそれぞれ別の版を持つと、直したときに片方だけが新しい状態になります。原稿を持つ側を1つに決め、他は複写を受け取る形にしてください。
配っただけで終わらせないための説明の場
地図を配っても、読まれなければ意味がありません。配布と同時に、読み方を伝える場を1回だけ設けてください。
説明に必要な時間は15分です。総会や役員会の冒頭、訓練の前の集合時、どこかに差し込めば足ります。伝えることは3つだけです。第1に、この地図で示しているのはどの災害を想定した経路か。第2に、どの記号が何を意味するか。第3に、自分の家からどの道を通るのか。
第3が最も重要です。地図を見せられても、自分の家からの経路を自分で読み取る人は少数です。地区ごとに「この区画の方はこの道を通ってください」と具体的に言うところまでやると、地図が行動に結び付きます。
説明の場に来られなかった人への手当ても用意します。同じ内容を数行の文字にして、地図と一緒に届けてください。長い文章は読まれないため、経路の指定だけに絞ります。
説明のときに出た質問は記録しておいてください。「この道は雨のときも通れるのか」といった質問は、次の見直しで確認する対象になります。質問が出た場所は、地図の情報が足りていない場所です。
作ったあとに毎年やることを決める
防災マップは、作った年がいちばん価値が高く、放置すると数年で使えなくなります。塀は撤去され、店は変わり、避難所の指定も見直されます。
見直しの間隔は年に1回で足ります。時期を決めてください。訓練の前に合わせると、参加者が地図を持って歩く形になり、直すべき点がその場で出てきます。
見直すのは全部ではありません。毎年確認するのは3点です。第1に、避難所の指定が変わっていないか。第2に、地図に載せた危険な場所が現在もそのままか。第3に、新しく危険になった場所がないか。この3点だけなら、役員が数人で1時間ほど歩けば確認できます。
3年から5年ごとに、作り直しを検討します。区域の建物が入れ替わり、印の位置が実際と合わなくなるのがこの間隔です。作り直すときは、前の版を捨てないでください。どこが変わったかを比べられると、区域の変化そのものが記録になります。
訓練との組み合わせも決めておきます。地図を配っただけでは読まれません。訓練のときに「この地図の経路で集まってください」と指定すると、全員が一度は開きます。年に1回開けば、災害のときに思い出せます。
見直しの担当も決めておいてください。役員の任期が1年の会では、地図の担当が毎年替わります。替わること自体は避けられないため、引き継ぐものを減らす形にします。前の年に何を直したかを1行ずつ書いた記録と、原稿の電子の版、この2つが次の担当に渡れば作業は続きます。逆に、この2つが残っていない会では、数年後に「前の地図がどういう基準で作られたか分からない」という状態になり、作り直しの判断もできなくなります。
見直しの結果、直す箇所が無い年もあります。その場合も「今年は変更なし」と記録に残してください。記録が空白のままだと、確認したのか忘れたのかが後から分かりません。
作業を回すための連絡と記録のまとめ方
防災マップを作る作業は、地図を描くこと以外の部分が大半を占めます。参加者を募る連絡、日程の調整、当日の集合場所の案内、雨天のときの延期の連絡、撮った写真の回収、できた原稿の確認、配布の分担。この7つが別々の場所で起きると、とりまとめる人の手元に何も残りません。
負担が集まるのはここです。歩くのは2時間ですが、その前後の連絡は1か月以上続きます。日程の希望をメッセージアプリで集め、写真を各自の機器に保存したままにし、原稿の確認を紙の回覧で回す形にすると、次の年に同じ手順を思い出せません。役員が毎年替わる会では、この分散がそのまま引き継ぎの困難になります。
参加者の名簿、日程の希望、当日の案内、撮った写真、原稿の版が同じ場所にまとまっていれば、次の担当に渡すものが1つで済みます。区域内の危険な場所の情報や、支援が必要な世帯に関わる内容を扱うため、外部から見られない場所に集める必要もあります。
いま使っている連絡の道具を見直す材料としては、メッセージアプリのグループで連絡を回している場合の機能の差を整理したLINEグループとの比較、連絡先を交換せずに参加してもらう形を扱ったLINEオープンチャットとの比較、団体向けに作られた道具の設計を比べたBANDとの比較、写真の共有を含めた使い勝手を比べたFacebookグループとの比較があります。防災の活動と回覧を並行して回す町内会の形は町内会での使われかたに、役員が毎年替わる前提での連絡の形はPTAでの使われかたに整理されています。始める前によく聞かれることはよくある質問にまとまっています。
ただし、道具を替えるのは最後の手順です。先に、行政の地図で下調べをし、歩くルートと見る対象を決め、記号を5種類に絞り、配る大きさと部数を決める。ここまでやってなお、参加者との連絡と写真の回収が負担の中心だと分かったときに、まとめる話に進むほうが移行の手間に見合います。作る手順を決めないまま道具だけ替えても、地図は完成しません。
Q1. 市が配っているハザードマップがあるのに、自分たちで作る意味はありますか?
役割が違います。行政の地図は想定区域と避難所を広い範囲で同じ基準で示したもので、崩れそうな塀、雨で水がたまる交差点、夜に暗くなる道といった歩かなければ分からない情報は載りません。地域で作る地図は行政の地図の上に自分たちの目で見た情報を重ねるものです。下調べには行政の地図を使ってください。
Q2. まち歩きにはどれくらいの時間と人数が必要ですか?
1つの組は5人から8人、所要時間は2時間を上限に組んでください。10人を超えると後ろの人に話が届かず、見る場所がずれます。区域が広い場合は組を分けて別のルートを歩き、あとで1枚に合わせます。子どもを含む組は集中が続く1時間程度で切り上げる計画にしてください。
Q3. 作った地図はどの大きさで何部刷ればよいですか?
A3判が扱いやすい大きさです。壁に貼れて、折れば持ち歩けます。部数は区域の世帯数に1割程度を足し、新しく入居した世帯の分と集会所に保管する分を確保します。費用は紙の種類と部数で大きく変わるため、同じ仕様で複数の業者から見積もりを取ってから決めてください。
Q4. 写真を撮るときに気をつけることはありますか?
危険な対象だけが写るように寄せて撮り、表札、車のナンバー、窓の中、洗濯物が入らないようにしてください。あとから切り取る場合も、元の写真の保管場所に同じ配慮が必要です。撮った写真は参加者の機器に残したままにせず、会の中だけで見られる場所に集めてから1枚にまとめる作業に入ります。
